糸とボビンのはじまりのお話

こどものころ、お裁縫は得意じゃありませんでした。

自分の手で何かを形にしていく過程は
わくわくして楽しくて…
つくっている時間は好きだったけれど、
母親のようには器用に出来ない自分が
すごくもどかしかった。

たぶん、お料理のほうが好きだった。
絵を描くことのほうが好きだった。
本を読むほうが好きだった。
ピアノを弾くほうが好きだった。

お裁縫は、順番で言ったら
四番目か五番目ぐらい。
本当に小さな趣味だったけど…

いつの間にか、こんなふうに毎日、
ミシンの前に座っている。
こんな日々が来るなんて想像もしませんでした。


お裁縫をもういちど始めたきっかけは、たぶん
宇都宮に戻ってきたこと、だと思います。

「この町では、東京で着ていた服が似合わない」

あるときそれに気が付いて、
それからはもう、どんな服を着ていても
なにかが違う気がして、
でも、どんな服を買ったらいいのかもわからなくて、
途方に暮れたような気分でした。

病気をして働けなかったあの頃、
お金を服に費やす気にもなれなかったから、
「自分で服をつくろう」
と思い立ったのは、自然な流れだったのかもしれません。

それから、何枚も何枚も、
自分が着る服を毎日縫い続けました。

しばらくしてタンスがいっぱいになった頃、
手もとには、端切れの山ができていました。
リバティプリントやブラックウォッチ、デニム、帆布…
どの生地にも愛着があったので、
小さなものでも捨てたくない…
そんなふうに感じて、いつしか
小物づくりをするようになりました。
最初につくったのはたしか、ウールの帽子。
リバティプリントをはぎ合わせて裏地に使って…


「糸とボビン」というお店は、たぶん
いくつもの理由と、いくつものきっかけが重なって
始まったものです。

ずっと前から計画していたものでも、
かといって、
ちょっとした思い付きで始めたものでもない、
不思議だけれど、自然な流れでスタートした、
小さなお店です。

これからどんなふうに変わっていくのか
自分でもまだわからないけれど、
嘘のない、誠実な仕事をしていきたいと
それだけは強く思っています。

「会社員」という立場では、できない仕事がしたい。
上辺だけの仕事、
その場だけの仕事はもうしたくない。
一度きりの人生だから。
後悔のない仕事を。



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